タクシー事故後の対応&タクシー共済の示談交渉における注意点

「交通事故に遭ったら、加害者がタクシーだった」という方はいませんか?交通事故についての示談交渉は、通常は加害者が加入している保険会社(加害者が任意保険に加入していなければ加害者本人)と行います。
しかし、タクシーが加害者となった交通事故では、示談交渉の相手が「タクシー共済」となることがあります。

タクシー共済は、被害者救済だけでなく、タクシー事業者で助け合うことを目的としているため、タクシー共済からは保険会社以上に強硬な態度を取られる可能性があります。

今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。

  • タクシー共済とは
  • タクシーとの交通事故で負傷した場合の対応について
  • タクシー共済との示談交渉について
  • タクシーとの交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリットについて

タクシー事故はタクシー共済が対応することも

まず、タクシー共済と任意保険会社との違いをご説明します。

(1)タクシー共済とは?

タクシー共済とは、タクシー事業者が結成した組合です。 タクシーによる交通事故の被害者への賠償を行う役割 を担っています。
タクシー会社や個人のタクシー運転手は、自賠責保険のみならず任意保険への加入が義務付けられています(旅客自動車運送事業運輸規則第19条の2)。

しかし、任意保険はタクシー運転手の運転頻度の高さから、どうしても一般の人よりも保険料が高額となります。
そのため、タクシー会社や個人のタクシー運転手は、任意保険の代わりにタクシー共済に加入していればよいとされました。

(2)一般の任意保険とタクシー共済の違い

被害者への損害補償をするために加入するのが任意保険です。一般的に自賠責保険は最低限度の補償となっており、自賠責保険だけでは賠償が不十分なことも多いからです。
一方 タクシー共済は、タクシー運転手の相互扶助が主な目的で結成されています。
また、保険会社が金融庁の監督に服しているのに対して、タクシー共済はこのような行政からの監督を受けていません。
そのため、示談交渉において被害者よりもタクシー運転手寄りの立場となる可能性があります。
例えば、 一般の任意保険会社よりも低い水準の賠償金を提示してきたりするなど、交渉が難航する可能性があります。

(3)タクシー共済の反論の例

タクシーによる交通事故の被害に遭ったとき、 タクシー共済から交渉に際して強硬な態度を取られるケースがあります。
例えば、次のような主張や反論です。

  • そもそも交通事故が起きておらず、被害もないはずだ
  • 事故態様は軽微なものにとどまっており、ケガをしたはずがない
  • 交通事故は100%被害者の過失により起きたので、賠償義務がない
  • 交通事故によりタクシー車両が損壊して高額の損害が発生している

このような主張に適切に対応するためには、 事故についての証拠をできるだけ確保しておく必要があります。

タクシー事故で負傷したときの対応

では、タクシーとの交通事故に遭った場合、どのように対処すべきかを時系列に沿って説明します。

(1)事故直後の対応

事故発生の直後にすべきことは、相手がタクシーの場合と一般の人の場合で大きく異なりません。

流れとしては、次のようになります。

  • 負傷者の救助、車両の安全な場所への移動
  • 警察への通報
  • タクシー運転手から、氏名や連絡先、勤務先、加入している保険やタクシー共済について聴取する
  • 現場や被害状況についての写真撮影
  • 目撃者がいたら、後日に証言等の協力をお願いできるか確認し、協力を受けられるのであれば連絡先を控える
  • 警察の捜査、事情聴取に対応する
  • 自分の入っている任意保険会社に事故について連絡する

その場でタクシー運転手の側から示談交渉を持ち掛けられる場合もありますが、その場では決して応じないようにしてください。 示談交渉は書面なしの口約束であったとしても成立しますし、一度成立した場合には原則として変更できないからです。
事故直後には気づけなかった思わぬ症状が後から出てくることもありますし、事故に遭ったことで興奮状態になっていると冷静な判断ができません。その場で話をしてしまうと、法的に請求可能な金額よりも大幅に下回った金額で示談をまとめてしまうこととなるリスクがあります。

(2)なるべく早く病院に行く

交通事故の被害に遭った場合、 痛みや目に見えるケガがなかったとしても、念のために病院に行きましょう。 事故直後はショックや興奮で痛みに気づきにくく、後日思わぬ後遺症が出てくる可能性もあるためです。
交通事故から病院に行くまでに日数が空いてしまうと、事故によるケガや症状であるにも拘わらず、交通事故と関係がないケガや症状であるとして、損害賠償を受けることができなくなるリスクが高まってしまいます。
また、将来後遺症が発覚しても後遺障害認定を受けにくくなってしまいます。

(3)人身事故で届け出る

事故の時点で負傷がはっきりしていた場合は、警察からの事情聴取の際に人身事故であることを伝えます。
また、後日に負傷が判明した場合も、物損事故から人身事故への切り替えを行うための届け出を欠かさず行います。
人身事故としての届け出があると、警察は事故状況や現場についての詳細な「実況見分調書」を作成します。

この 実況見分調書は、示談交渉や損害賠償請求を行う際の重要な証拠となります。

ケガが判明したら、できる限り人身事故としての届け出を行いましょう。

(4)タクシー共済との示談交渉を始める

タクシー共済との示談交渉は、交通事故についての治療が全て終了し、損害の範囲がある程度確定してから開始します。
「損害の範囲がある程度確定する」とは、一般に次のいずれかの場合です。

  • (後遺症が残らない場合は)医師が完治したと判断したとき
  • (後遺症が残る場合は)医師が「症状固定」と判断&後遺障害等級認定の手続きが終了したとき

症状固定とは、これ以上治療を行っても改善が見込まれない状況をいいます。

(5)示談が難航した場合の対応

任意保険会社が交渉相手となる事故の場合でも、任意保険会社は支払額を抑えようとします。特に、弁護士に依頼せず自力で交渉している場合には低い水準での金額を提示されるのが通常です。

ましてや、先ほど述べたように、 タクシー共済は任意保険会社以上に低い水準での金額を提示してくる傾向にあります。
提示された金額を安易に了承してしまうと、実際の損害額を大きく下回る示談が成立し、被害者にとって不利な結果に終わる可能性があります。
タクシー共済の提示する金額で本当によいのか慎重に検討しましょう。検討するために、 弁護士に相談するというのも一つの方法です。

また、互いに納得いく結論が出ない場合は訴訟を提起し、裁判所の判決や和解提示に委ねることとなります。

タクシーとの交通事故の示談交渉は弁護士に相談

ここまで見てきたように、タクシーによる交通事故の場合、任意保険会社との交渉以上に被害者にとって困難が生じる可能性があります。

ただでさえ事故で心身に負担がかかっているのに、タクシー共済との交渉によるストレスを負うのは大変です。

そこで、タクシーとの交通事故について弁護士に示談交渉を依頼するメリットを説明します。

タクシー事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット

弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士が代理人としてタクシー共済との交渉を行います。
そのため、 自力で交渉する場合と比べてストレスを軽減することができます。
また、タクシー共済から様々な反論(タクシー運転手の過失はないなど)をされても、適切に対応することが可能です。
後遺症が残った場合にも後遺障害等級認定において弁護士からのサポートが受けられます。
慰謝料についても、通常、弁護士は賠償額が基本的に一番高くなる「弁護士の基準」に基づいて交渉します(ご自身の過失割合が高い場合は、異なる場合があります)。

弁護士の基準は、過去の交通事故の裁判例を基にして作成された、弁護士が使用する慰謝料などの算定基準です。

弁護士の基準は先ほど出てきたタクシー共済の基準よりも高額になる傾向があるため、弁護士に依頼せず示談交渉した場合よりも、高額の賠償金を受け取れる可能性が高まります。
また、 示談交渉がまとまらず訴訟に移行した場合も弁護士は代理人として訴訟を遂行できます。
弁護士に依頼する場合には弁護士費用がかかりますが、 かかった弁護士費用以上に賠償金を増額できるケースも多くあります。自分でやるよりも、いくらくらいの増額が見込めるのかは、事前に弁護士に聞いておくとよいでしょう。

また、 弁護士費用特約を利用できる場合は、一定額までは任意保険会社が弁護士費用を負担してくれます。

【まとめ】タクシー共済との示談交渉では、低い金額を提示される傾向がある

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • タクシーとの交通事故の場合、示談交渉の相手はタクシー共済となることがある。タクシー共済はタクシー事業者の相互互助が目的の組織であるため、一般の任意保険会社を相手とした示談交渉よりも難航する可能性がある。
  • タクシー共済との示談交渉には、ストレス軽減やより有利な示談につなげるために弁護士に相談することがお勧め。


タクシーによる交通事故の被害に遭い、賠償金請求のことでお悩みの方は、交通事故の賠償金請求を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。

この記事の監修弁護士
中西 博亮
弁護士 中西 博亮

弁護士は敷居が高く,相談するのは気後れすると感じられている方も多いのではないでしょうか。私もそのようなイメージを抱いていました。しかし,そのようなことはありません。弁護士は皆,困った方々の手助けをしたいと考えております。弁護士に相談することが紛争解決のための第一歩です。ぜひ気軽に弁護士に相談してみてください。私も弁護士として皆さまのお悩みの解決のために全力を尽くします。

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